大阪障害者センター 壁ニュース

岡山浅田訴訟、原告浅田氏全面勝訴!

「壁ニュース」テキスト版 2018/12/15

岡山浅田訴訟、広島高裁岡山支部が判決!
原告浅田氏全面勝訴!65歳問題に大きな光明か?

 浅田訴訟とは、2013年2月12日に彼が受給していた月249時間の重度訪問介護の支援が、介護認定に応じなかったことを理由に、岡山市の通知ですべて打ち切られたこの処分をめぐる争いへと移りました。
 審査請求での対応後、2013年9月に、岡山地裁に提訴、2018年3月には、岡山地裁は、1 岡山市の処分取消 2 不足部分の96時間(従前の249時間-変更処分153時間)の介護給付費支給決定の義務付け
3 慰謝料100万円+5か月の介護保険自己負担部分75000円の計107万5000円の損害賠償を認める。という全面勝訴判決が出されました。
 しかし、市は、この判決を不服とし、控訴を行い、広島高裁岡山支部で、その控訴審が展開されてきました。
 いわゆる「65歳問題」として全国からも注目され、「他法優先原則」の取り扱いや、「65歳になったら障害者でなくなる」制度の問題点を大きく糾弾する闘いとして知友目されてきました。
 その、高裁判決が、12/13示されました。

【高裁判決の概要】
1 まず、主文は「岡山市の控訴を棄却する」です。つまり、「本件処分を取り消し、96時間の自立支援給付の支給決定を義務付け、107万5000円の損害賠償を認めた」岡山地裁判決が支持されました。一審に引き続き、浅田さんの全面勝訴です。

2 訴えの利益について、高裁判決は、自立支援給付と介護保険給付との違いに言及したうえで「浅田さんは現在においても、受けたサービスに要した費用(本件においては特に自己負担額)のために、自立支援給付の支給決定を受ける法律上の利益を有している」と指摘しました。

3 本件処分の違法性については、地裁判決とは異なる判断方法を採っています。
まず、以下の(1)のとおり、本件処分が岡山市の主張するような覊束処分ではなく、裁量処分だと論じた上で、そのうえで(2)のとおり、本件処分が裁量を逸脱していることを述べています。
(1)自立支援法7条が
ア 自立支援給付と介護保険給付とは異なるもので、介護保険給付を受けることができる障害者に対しては、一律に自立支援給付の不支給決定をするのではなく、要介護状態以前の障害によりどのようなサービスが必要なのか、介護保険給付の自己負担額を支払うことが障害によりどの程度負担なのかなどを考慮して、自立支援給付を選択することが相当である場合があること
イ 本件通達も一律に介護保険給付を優先的に利用するものとはしないこととしていること
ウ 国は、本件合意文書をもって、自立支援法7条の介護保険優先原則の廃止を検討することを約束したこと
エ 本件実態調査によれば、自立支援給付の申請を却下する自治体は6.4%(6自治体)に過ぎず、現実にはアの選択がなされていること
からすれば、自立支援法7条は、自立支援給付と介護保険給付等の二重給付を回避するための規定であって、介護保険申請をしない場合に自立支援法7条に基づき自立支援給付の不支給決定をすることは、覊束処分とはいえず、裁量処分と解するのが相当、としています。
(2)岡山市が、浅田さんの周りにボランティアがおり、必要最低限度の支援まで失われてしまうわけではないことを判断の基礎として勘案し、自立支援給付の全部の不支給決定をしたことは、看過し難い誤りである。そして、浅田さんがやむなく介護保険給付の申請をし、介護保険給付に費用の一時的な支払の負担が大きかったことも認められる。そうすると、介護保険給付を受けていることをもって、取消対象部分に係る自立支援給付に相当するものを受けていると判断したことは、社会通念 に照らして明らかに合理性を欠く。したがって、本件処分は裁量権の逸脱濫用にわたり違法、としています。

4 高裁判決は義務付け、損害賠償請求についても一審と同様に認めました。

【判決文から】
※自立支援給付は,全ての国民が障害の有無にかかわらず個人として尊重されるものであるとの障害者基本法の理念にのっとり,障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービスに係る給付等を行うものである。これに対し,介護保険給付は,加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となった者耽自立した日常生活を営むことができるよう,必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うものである。したがって,介護保険給付が,自立支援給付の全てに相当するとはいえない。
 また,地方税法上の非課税世帯の対象者に限ってみれば,自立支援給付には自己負担額がないものの,介護保険給付には自己負担額がある。したがって,介護保険給付を受ける地位が,自立支援給付を受ける地位と同じとはいえない。
※まず,自立支援法7条について,
ア そもそも,自立支援給付と介護保険給付は,その目的及び対象が異なり,故に給付の内容も相違するところがあるし,障害者が65歳になる前から有していた障害が,65歳になるや,加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病等による要介護状態になるというわけでもないから,介護保険給付を受けることができる障害者に対しては,一律に自立支援給付の不支給決定をするのではなく,要介護状態以前の障害によりどのようなサービスが必要なのか,介護保険給付の自己負担額を支払うこ  とが障害によりどの程度負担なのか等を考慮して,自立支援給付を選択することが相当である場合があること, 
イ 厚生労働省も,自立支援法施行の翌年には,本件通達をもって,一律に介護保険給付を優先的に利用するものとはしないこととし,介護保険給付を利用可能な障害者が,その申請をしていない場合は,介護保険給付の利用が優先される旨を説明し,申請を行うよう周知徹底を図るよう求めるにとどめていたこと,
ウ 国は,その後,本件合意文書をもって,自立支援法7条の介護保険優先原則の廃止を検討することを約束したこと,
エ 本件実態調査によれば,現在,介護保険給付を利用可能な障害者が,その申請の勧奨にも応じないで,自立支援給付の申請をしている場合に,自立支援給付の申請を却下する自治体は,6.4%(6自治体)にすぎず,現実に前記アの選択がなされていること,からすれば,自立支援法7条は,自立支援給付と介護保険給付等の二重給付を回避するための規定であって,介護保険給付を利用可能な障害者が,その申請をしない場合に,自立支援法7条に基づき,自立支援給付の不支給決定をすることは,輯束処分とはいえず,裁量処分と解するのが相当である。

 こうした判断が出されたことは、これまでの優先原則論に対する大きな警鐘で、こうした制度運用の見直しへとつながる大きな論拠となる意味でも大きな意義あるものといえます。全国で起こっている裁判にも大きな影響を与えるものです。

【浅田達雄さんを支援する会 アピール】
 岡山市に対し、広島高裁岡山支部で下された浅田訴訟判決を真摯に受け止め反省するとともに、判決内容を直ちに実効あるものとすることを求めます。

 本日、広島高等裁判所岡山支部は、今年3月14日に岡山地方裁判所(横溝邦彦裁判長)がくだした「重度障害者の浅田達雄さんに対する岡山市の行政処分は違法とする判決」を不服として岡山市が控訴していたものを、棄却する、と判決を下した。
 私たちは、岡山地裁ならびに広島高裁岡山支部の判断に敬意を表するとともに、この裁判所の判決を岡山市が厳正にかつ真摯に受け止める事を求める。
 岡山地裁での第1審の判決内容は、①岡山市の処分を取消し、②障害福祉サービスの支給を義務づけ、③慰謝料等の支払いを命じたものであった。高裁はこの内容を再び確認したことになる。
 岡山市は、浅田達雄さんに執った行政処分が違法であると司法の場で2度にもわたり結論が出されたことを真摯に受け止めるべきである。
 本来、日本国憲法は、13条において「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と基本的人権、個人の尊厳をもっとも尊重することを規定している。当然、重度障害者の浅田さんもこの憲法上の基本的人権を享有する権利を有しており、岡山市は憲法尊重義務を負って行政を展開し一人ひとりの市民についてそれぞれの人権を尊重すべき立場にある。
しかるに、2013年2月、浅田さんが満65歳になる際に、介護保険の申請手続をしないでそれまで受けていた障害福祉サービスの継続を求めたところ、岡山市はこれを全面的に却下する処分を行った。そのあまりにひどい行政処分に対して浅田さんは、処分が違法だと主張して訴訟を起こしたものである。
 行政処分が違法であると下された第1審判決に対して岡山市が控訴したことは、浅田さんの命さえも脅かし人権を侵害する行為であったことを認めないという姿勢を改めて内外に示したものである。それは、自らが策定している岡山市障害者プランの理念のひとつ「障害のある人がそれぞれ社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる活動に参加する機会が確保されるとともに、自らの意思に基づいて地域での自立した生活を送っていけるよう支援します。」にも背反する行為であった。
 それだけに、今回の判決の持つ意味は、岡山市当局とともに控訴自体を容認した岡山市議会に対しても大きな影響をもつものである。
65歳時点での浅田さん本人からの「障害者自立支援法に基づく介護サービスの申請」、次に第1審の判決、そして今回の判決を入れて、福祉行政の見直しにかかわり三度チャンスをもらった岡山市が、今度こそはこの判決をきちんと受け入れ、憲法と障害者基本法にもとづき「障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される」岡山市に転換をはかることを心から期待を込めて呼びかけるものである。

 2018年12月13日
浅田達雄さんを支援する会