大阪障害者センター 壁ニュース

注目しておきたい今後の社会保障制度改革の流れ

「壁ニュース」テキスト版 2019/02/18

 現在、198回国会が開催され、来年度予算等大切な審議が予定され、「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」等の他「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」等の審議も行われる予定です。
 ただ、「不正統計」問題など、今後の消費税引き上げ等の根拠となる資料統計の不正があるならば、様々な施策決定大きな影響を与えることから、こうした問題を野党がどう追及していくのかも注目されています。
 また、障害福祉の分野では、二つの法案も提出の予定があり、その審議の動向も目が離せません。
 注目すべき、提出予定法案は以下の通りです。

旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)

1 前文 
(1) 昭和23年に制定された優生保護法に基づき、あるいは同法の存在を背景として、特定の疾病や障害を有すること等を理由として多くの方々が、平成8年に改正が行われるまでの間、その生殖を不能とする手術や放射線の照射を強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、真摯に反省し、心から深くおわびする。
(2) 今後、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、障害や疾病の有無によって分け隔てられることなく全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて努力を尽くす決意を新たにするものである。
(3) ここに、国としてこの問題に今後誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、対象者に対する一時金の支給に関し必要な事項を定めるため、この法律を制定する。

2 対象者 
次に掲げる者であって、この法律の施行の日において生存しているもの
① 旧優生保護法第2章の規定により優生手術(同法第2条第1項に規定する優生手術をいう。)を受けた者(同法第3条第1項第4号又は第5号に規定する者に該当することのみを理由として、同項の規定により優生手術を受けた者を除く。)
② ①のほか、旧優生保護法が施行されている間(昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間)に、本人又は配偶者が旧優生保護法に規定する疾病若しくは障害又は当該障害以外の障害を有していること等を理由として、生殖を不能とすることを目的とする手術又は放射線の照射を受けた者

3 一時金の支給 
(1) 対象者には、一時金を支給する。一時金の額は、一律とする。
(2) 対象者が、4(1)の一時金の請求をした後に死亡した場合であって、その者が受けるべき一時金があるときは、その者の配偶者等で死亡時に生計同一であった遺族に支給し、遺族がないときは相続人に支給する。

4 権利の認定 
(1) 一時金の支給を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基づいて、厚生労働大臣が行う。
(2) 厚生労働大臣の認定を受けようとする者は、その居住地の都道府県知事を経由して請求を行うことができる。
(3) 請求は、この法律の施行の日から起算して5年以内に行わなければならない。
この請求期限については、この法律の施行後における一時金の支給の請求の状況を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。
(4) 厚生労働大臣は、請求があったときは、優生手術に関する記録に当該請求に係る事実の記録がある場合を除き、当該事実があったかどうかに関し旧優生保護法一時金支給認定審査会〔仮称〕(以下「認定審査会」という。)に審査を求めなければならない。
(5) 認定審査会は、厚生労働省に置かれるものとし、医学、法律学、障害者福祉等に関する専門的知識を有する者で構成する。
(6) 認定審査会は、(4)の審査において、請求に係る事実について記録した資料がない場合においても、本人及び関係者の供述、医師の所見その他の資料を総合的に勘案して、適切な判断を行うものとする。
(7) 厚生労働大臣は、(4)により認定審査会に審査を求めた請求については、その審査の結果に基づき、認定に関する処分を行わなければならない。
(8) 厚生労働大臣及び認定審査会並びに都道府県知事は、必要があると認めるときは、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
(9) 認定審査会は、必要があると認めるときは、請求者に対して、指定する医師の診断を受けるよう求めることができる。

5 周知等 
(1) 国は、この法律の趣旨について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解を得るよう努めるものとする。
(2) 国及び地方公共団体は、国民に対し一時金の支給を受けるのに必要な情報を十分かつ速やかに提供するために一時金の支給に関する制度の周知を適切に行うとともに、一時金の支給の請求に関し利便を図るための相談支援の業務その他の必要な措置を適切に講ずるものとする。この場合において、対象者の多くが障害者であることを踏まえ、障害者支援施設その他の関係者の協力を得るとともに、障害の特性に十分に配慮するものとする。
※具体的な周知等の措置のイメージ
・障害福祉サービスの認定、障害者手帳の更新等の行政手続の機会を利用したきめ細やかな案内
・行政による相談窓口の設置
・弁護士会、医療関係者等の幅広い関係者の協力を得た相談支援の実施
・広報用ポスター・パンフレットの活用
・医療機関、障害者支援施設等を通じての申請の呼びかけ

6 その他 
一時金については、公租公課を課することができない。

【JDが第二次意見書案を準備】
 なお、この提案について、昨年11/21の題した第一次提案につづき、JDは、法案に対する意見書を準備中で、その主要項目は以下の通りです。
1.国による謝罪
 現在開会中の198通常国会において、総理大臣として「すべての被害者に無条件で謝罪と補償を行うこと」を宣言すること。

2.法律の名称と内容について
 法律の名称は「一時金の支給」ではなく、「被害者の人権と尊厳の回復」「謝罪と補償」を明記し、「謝罪」「補償」「検証」「再発防止」の要素を盛り込むこと。
 前文には、国の謝罪、日本国憲法に違反していること、障害者権利条約等国際規範に反していることを明記すべきである。

3.謝罪と補償の対象について
 基本方針案にある優生保護法の被害者に限定せず、優生保護法に基づくすべての手術を施された者だけではなく、国民優生法に基づく手術や優生保護法が失効した後に優生保護法の濫用や優生保護法の考え方によって行われた断種手術や子宮摘出手術などの手術を施された者とその家族を対象とすること。

4.補償について
 基本方針案では一時金の支給とされているが、被害を受けた人たちの多くが、知的障害のある人、精神障害のある人など、意思表明ができにくい人たちであること、高齢化していることに留意し、一時金での支払いか年金方式であるかを選択できるようにすること。金額は旧優生保護法国賠訴訟の賠償額を参考にすること。なお、補償については期限を設けないこと。

5.検証について
 第三者機関による検証を国と地方自治体で行うこと、その設置規定について法律案に明記すること。ハンセン病問題に関する検証会議なども先行事例として参考にすること。

雇用偽装問題を受けた障害者雇用促進法「改正」案

 もう一つは、昨年8月に発覚した障害者雇用偽装問題等を受け、政府・厚労省は、障害者雇用促進法「改正」案を今国会に提出する予定です。
 同法案は、3月頃に国会に提出される見通しで、この間、厚労省は、労働政策審議会「障害者雇用分科会」において法改正に向けた原案を示し、議論を行っています。

【原案骨子】
 原案では、以下のような改正内容が提案されています。
○国や自治体に障害者を解雇した際の届け出を義務化(ハローワークに)し、不当な解雇を防ぐことや障害者手帳のコピー等関係書類の保存義務。また、これまで厚労省が一括発表していた障害者の雇用状況は、行政機関ごとに公表することで責任を明確化する。
○雇用の質の確保に向けては、採用や職場環境に関する計画策定や、障害者の相談や指導に当たる「生活相談員」の選任などを規定すること。
○民間企業の雇用促進策については、労働時間が週20時間未満の障害者の雇用機会を確保するため、採用する企業への給付金制度の創設。(ただし雇用率制度のカウントは現行通り20時間以上)。○中小企業対策では、障害者雇用の優良な事業主の認定制度創設(評価項目でのポイント制)。
※ただ、当初厚労省が検討していた偽装行為の再発防止策としての他省庁への立ち入り権限創設については「他の法令との整合性から難しいと判断」し、見送られたと共同通信が伝えています。

 この問題では、政府は、障害者雇用率の不足分約4000人を早期に達成するため、2/3に障害者採用の初の国家公務員試験を東京や大阪など全国9地域で実施しています。この1次選考(筆記試験)には、6997人が受験、採用予定数676人の10倍を超える障害者が参加したとも伝えられています。しかし、この問題での政府の新年度対応予算は、「公務部門における障害者雇用の推進【新規】予定額343百万円」のみで、各府省等向けのセミナー・職場見学会の開催、職場定着支援等を実施、障害に対する理解促進のための研修等に取り組むことが主な内容となっており、この間、障害者団体が要望してした行政機関の障害者雇用状況を監視する第三者機関の設置や公的部門にも納付金制度の適用を。また、障害に配慮した特別採用枠の創設や通勤や職場内介助者の保障(福祉サービスの併用含む)等の見直し等の課題は先送りされたままとなっています。その意味で本格的に当該制度の実効性を高めるという姿勢については、様々な疑問が出されています。

明るい社会保障改革とは

 198国会、障害福祉関係でもいくつかの課題の審議も!
~注目しておきたい今後の社会保障制度改革の流れ~

なお、こうした具体的法案とともに、経済財政諮問会議等でも明らかなように、経産省に「産業構造審議会」が設置され、アベノミクスの一層の促進と社会保障経費の削減を狙う制度改革を着々と進めようとしています。 この審議会からは、2050年を想定した「明るい社会保障改革」の提案が行われ①健康寿命の延伸に向けた予防・健康インセンティブの強化、②生涯現役社会に向けた雇用制度改革(高齢者の就労・社会参加の促進、柔軟で多様な労働市場の実現、生涯現役時代に対応した年金制度)や民間活力の活用としての成長産業育成方針等が打ち出されています。
 この間の各種報酬が制度的インセンティブを高める、「成果報酬型」に変更されてきたこともこうしたインセンティブ強化ですが、今後は国民意識の転換をもターゲットにした「賢いチョイスの促進」として「ナッジ」等の政策誘導が進み、ますます個人責任化が進んでいく可能性もあり、こうした全般的動向にも十分注目しておく必要がありそうです。
 まさに、障害福祉のみならず、今後の社会保障が同すs目られていくのか、大きな国民的議論が必要です。