大阪障害者センター 壁ニュース

優生保護法問題の早期かつ全面的解決を

「壁ニュース」テキスト版 2021/08/11

優生保護法問題の早期かつ全面的解決を!
~神戸地裁判決を受けての院内集会を開催~

 旧優生保護法下での強制不妊手術などをめぐって、全国でたたかわれている「優生保護法問題訴訟」の6件目となる判決が、8/3神戸地裁で行われました。
 兵庫県内の男女5人が国に計5500万円の賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁(小池明善裁判長)は、旧法を違憲と判断しました。長期間、差別的条項を廃止しなかった国会の不作為を違法と指摘しました。一方で、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する民法の「除斥期間」を適用し、原告側の請求を棄却したものです。
 全国9地裁・支部で起こされた同種訴訟のうち6件目の判決で、違憲判断は仙台、大阪、札幌に続き4件目ですが、国会の不作為を違法とする司法判断は初めてです。原告側は控訴する方針とされています。
 なお、弁護団、歩む会は、以下のような声明を配信しています。

【声明】
優生保護法被害兵庫弁護団
優生保護法による被害者とともに歩む兵庫の会

 本日、神戸地方裁判所第2民事部(小池明善裁判長)は、優生保護法による被害者5名の国家賠償請求を棄却する判決を言い渡した。
 本判決は、原告ら5名への手術がいずれも優生保護法が定める優生条項に基づく手術であることを認めた。そして,優生保護法は立法目的が極めて非人道的で個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の理念に反することは明らかとしたうえ,幸福追求権・自己決定権を保障する憲法13条,不合理な差別的取扱を禁止する憲法14条,家族に関する事項について個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきとした憲法24条2項に違反すると判示し,このように違憲の優生条項を廃止しなかったという国会議員の違法行為により原告ら5名の手術による損害が生じたものとして原告ら5名は損害賠償請求権を取得したと判示したが,国家賠償法4条・民法724条後段が定める20年の除斥期間の経過を理由に,原告らの損害賠償請求権は消滅したと棄却した。
また原告らが主張した,優生思想及び国策としての優生政策によって助長された障害者に対する偏見や差別を根絶すること,そのために必要な立法政策を講じる義務について判決は,それらが国会議員の職責であるとしながらも,差別,偏見を根絶するための施策を遂行する義務を明文化し被害を受けた当事者に補償する義務については,その内容が一義的に明確ではなく,国会の裁量的権限に委ねられるべきであるとして,国会議員が立法措置を講じなかったことを違法とはいえないと判示した。
 これらの判断は、裁判所が、立法と行政が生じさせた深刻な被害から目を背け、人権の最後の砦としての司法の役割を放棄したものといわざるを得ず、断じて容認できない。
 国は、優生保護法を制定し、障害者に「不良」との烙印を押し、長年にわたり優生政策を推進することで、社会の隅々にまで優生思想を植え付けてきた。1996(平成8)年には優生条項を削除したものの、その後も今に至るまで、責任を認めて被害者に謝罪することはなく、優生思想を除去するための取り組みも怠り続けてきた。その結果、社会には今もなお、優生思想および障害者に対する偏見差別が根深く残っているのが現実である。優生保護法問題はいまだ終わっておらず、被害は今も続いている。
 現在までに8地裁1支部で25名の原告が訴訟を提起したが、そのうち4名は既に亡くなっている。被害者の高齢化は進み、解決には一刻の猶予もない。
本判決は、原告らの請求を棄却しながらも旧優生保護法の優生条項が日本国憲法に違反することが明白であるにもかかわらず,同条項が半世紀もの長きにわたり存続し,個人の尊厳が著しく侵害されてきた事実を真摯に受け止め,旧優生保護法の存在を背景として,特定の疾病や障害を有することを理由に心身に多大な苦痛を受けた多数の被害者に必要かつ適切な措置がとられ,現在においても同法の影響を受けて根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施策が講じられることを期待したいと判示している。そのように云うならば、国に法的義務があるとの判決をなすべきではなかったのか。
我々は、あらためて優生保護法問題の全面的な解決に向け、差別のない、誰もが人間としての尊厳が守られる社会の実現を目指し、これからも全力を尽くしていく。
2021(令和3)年8月3日

神戸地裁判決を受けての院内集会を開催

 なお、優生保護兵庫弁護団・ともに歩む兵庫の会・全国優生保護被害弁護団は、8/11「神戸地裁判決を受けての院内集会」をWEBで開催されました。

【集会概要】

①開会の挨拶
全国優生保護法被害弁護団共同代表
新里宏二弁護士
②神戸地裁判決を受けての院内集会趣旨説明】
優生保護法被害兵庫弁護団長 藤原精吾弁護士
「去る8月3日神戸地裁で言い渡された判決は、優生保護法の立法目的が極めて非人道的であって、この違憲の法律を長期間にわたって廃止しなかったことに国会議員の違法性と過失があり、優生手術を受けた者に対して国家賠償を行う義務が成立したと認定しました。
そして平成8年に優生条項を削除した後も、優生保護法が長期間存続した結果、現在もなお根深く存在する障害者への偏見や差別を解消する必要があり、そのために国会議員は積極的な施策を講じるべき義務があると判断しています。
 残念ながら判決は、この国の責任と義務について、一つは除斥期間満了により国の損害賠償義務は消滅したとし、また優生保護法により助長された障害者に対する偏見差別を根絶するための立法を講じる国会議員の義務の履行は国会の裁量的権限に委ねられるべきであるので、その不履行を違法とはできないとしました。
判決は述べました。「旧優生保護法の優生条項が日本国憲法に違反することが明白であるにもかかわらず、同条項が半世紀もの長きにわたり存続し、個人の尊厳が著しく侵害されてきた事実を真摯に受け止め、旧優生保護法 の存在を背景として、特定の疾病や障害を有することを理由に心身に多大な苦痛を受けた多数の被害者に必要かつ適切な措置がとられ、現在においても同法の影響を受けて根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施 策が講じられることを期待したい。」。
 本日の院内集会は、この判決を受け、現在なお社会に深く根付いている障害者に対する差別意識と事象、差別をもたらしている諸制度を、国会議員の責任において抜本的に解消する施策の具体化を求めて開かれました。集会は、旧優生保護法の下で不妊手術や中絶手術を受けさせられた人たちだけではなく、障害当事者と市民の声によって開かれました。
 国会議員の皆さん、すべての障害当事者と市民、裁判所が求める積極的な具体策を実現する作業に直ちに着手してください。私たちはその作業に参加していきます。その指針は障害者権利条約に明記されています。障害者権利条約の日本での実施状況については第一回の日本政府報告書審査が来春に予定されています。障害者権利委員会は日本政府に対する事前質問書で現状の問題点を指摘しています。それには本件の優生保護法被害者の問題も含まれます。JDF(日本障害フォーラム)や日弁連はこれに対する政府回答書(対応)の不十分さを指摘しています。優生保護法問題は今や抜本解決に踏み出す時に来ています。「優生保護法問題の全面解決にむけた要請書」では、一時金支給法の改正・補強を含めて抜本解決のために必要なことを提案しています。
国会議員の皆さん、この要請書に盛り込まれた当事者と市民の切なる願いを受け止めて下さい。
 本日の集会が、国会議員のみなさんが障害者、市民とともに、障害のある人に対する差別・偏見のない社会を共に作って行くスタートになることを願って本集会の趣旨説明と致します。

③神戸地裁判決を受けての兵庫訴訟原告のコメント
〇小林喜美子さん・寶二さん
〇鈴木由美さん
〇(仮名)高尾 奈美恵さん

④国会議員宛要請書の議連議員への交付
弁護団・原告より議連議員へ

⑤「優生保護法問題の全面解決にむけた要請書」の説明
優生保護法被害兵庫弁護団吉山裕弁護士

【要望内容】
 全国の原告らはいずれも高齢化が進み、提訴した25名の原告らのうち、4名は既に亡くなっています。原告ら、さらには、訴えることもできず、あるいは、被害を知ることもなく暮らしている多くの被害者の被害回復、尊厳回復をはかるには、一刻の猶予もないというのが現実です。
神戸地裁判決は、「旧優生保護法の優生条項が日本国憲法に違反することが明白であるにもかかわらず、同条項が半世紀もの長きにわたり存続し、個人の尊厳が著しく侵害されてきた事実を真摯に受け止め、旧優生保護法の存在を背景として、特定の疾病や障害を有することを理由に心身に多大な苦痛を受けた多数の被害者に必要かつ適切な措置がとられ、現在においても同法の影響を受けて根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施策が講じられることを期待したい」と付言しています。
政府、そして国会議員の先生方には、司法による最終判断を待つことなく、その責任に基づき自ら優生保護法問題の全面解決にむけた取り組みを早急に進めて頂きたく、以下の各項目の実施を要請する次第です。

第2 要請事項
1除斥期間を適用しない旨の立法措置
裁判所が、本件訴訟において、「除斥期間」を理由として被害者の被害回復を拒み続けるという理不尽極まりない状況を解決すべく、立法府の責任として、本件損害賠償請求権に除斥期間を適用しない旨を定める立法措置を講じること

2一時金支給法の改正
① 国の責任の明確化と謝罪
 前文における責任の主体を明確化し、国として被害者に謝罪すること
② 被害を償うに足りる賠償・補償
 被害者の人生被害を償うに足りる一時金額とすること
③ 対象者の拡充
 人工妊娠中絶を強いられた被害者、手術を強いられた者の配偶者等も補償対象とすること
④ 請求期間の延長または撤廃
現在、「施行日から起算して五年」とされている請求期間を、延長または撤廃すること
⑤ 優生思想に基づく偏見差別を解消するための施策
 国がその責任をふまえ、優生保護法被害者に対する偏見差別を解消するための施策を遂行する義務の明文化

3一時金支給法に基づく施策の充実
① 被害者への情報の周知と一時金支給の徹底
② 法21条による調査の徹底・充実

4優生思想および障害者に対する偏見差別の解消にむけた施策および立法措置の実施
 謝罪広告などのあらゆる方法により、広く社会に対し、優生保護法被害者の名誉回復の措置をとるとともに、優生思想および障害者に対する偏見差別解消にむけた教育、啓発等の施策および立法措置を実施すること

5真相究明・再発防止のための施策の実施
 長年にわたる優生政策の真相を究明し、二度と同じ過ちを繰り返さないため、第三者機関による検証等の施策を実施すること


6 継続的な協議の場の設置
 原告ら障害者の被害回復のための施策、優生思想に基づく偏見差別の解消にむけた施策の検討など、優生保護法問題の解決に向けた諸課題について、弁護団および当事者団体との継続的な協議の場を設置すること
      以 上
 
⑥各地原告のコメント
・仙台訴訟原告 飯塚淳子さん
・仙台訴訟原告義姉 佐藤路子さん
・仙台訴訟原告 東 二郎さん
・東京訴訟原告 北 三郎さん

⑦支援者・関係者からのコメント
〇明石市長 泉房穂氏
「小林夫妻とは長い付き合い、明石市(犯罪被害者支援金で対応、条例の策定、除斥期間撤廃を法制化を」

〇日本障害者協議会代表 藤井克徳さん
「私たちにとってもっとも問いところが、裁判所、1、除斥期間、憲法違反や人権侵害に除斥期間とは、2,一時金支給法で何が解決したのか、法律は機能していない、優生保護法の責任は国にある、被害者の人権の回復、3,保護法の総括は終わっていない、立法府も総括に向き合うべき、支給法改正の際にその総括を」

〇優生保護法による被害者とともに歩む兵庫の会共同代表 藤原久美子さん
「障害女性の複合差別の取り組み、原告の鈴木さんは未成年時に手術を受けた、介護する側の理由での手術法改正後でもこうした実態は残ていた、腰の痛みを理由に手術を受けた人もいる、周りから可愛がられるからと手術を受けた人もいる。出生前検査等も現在も実施されている。検査会社や医療クリニックが広告としてネガティブキャンペーンをはっている、こうしたことへの対応も」

〇ハンセン病訴訟弁護団共同代表 徳田靖之弁護士
「基本は藤井氏が言ったことと重なるが、今回の判決は国会議員への警告としてとらえてほしい。韓国への保障問題でも、「国会で議論されていない」と投げ返した過去がある。こうした経験を受けて、ぜひ国会での立法措置を。」

⑧署名活動について
強制不妊訴訟不当判決にともに立ち向かうプロジェクト・池澤 美月さん・山﨑睦子さん
※国が旧優生保護法の被害者に全面的な謝罪・補償をすることを求める請願(別途配信)

〇議員挨拶
・木村英子氏・打越さく良氏・阿部知子氏・川田龍平氏・高橋千鶴子氏

⑨ 福島みずほ議員ご挨拶
優生保護法下の強制不妊手術について考える議員連盟事務局長 福島みずほ参議院議員

⑩ 閉会の挨拶
全国優生保護法被害弁護団共同代表
西村 武彦弁護士
  
 行政訴訟のなかで、改めて国会に振られた判断に対し、今後訴訟とともに、国会・立法府への対策も含め対応が提案されています。
 本会の集会の趣旨を広く伝えていくことが急がれます。